日本ケーブル株式会社 様
地上と車両間の通信を長距離無線LAN製品でIP化
高速化・IP化を生かし新たなアプリケーション導入も可能に
- 企業
- 無線LAN
- 産業用イーサネット
日本ケーブル株式会社 様
ポイント
- 長距離無線LANや光バックホールの冗長化構成、車両内スイッチまで一括で提案
- 現地調査も踏まえ、路線ごとに最適なネットワーク構成を検討しシステム設計
- 想定外の問題に直面した際もオンサイトで調査して問題解決まで支援
導入製品
設備更新に伴い誘導無線の代替手段を検討
日本ケーブル株式会社は、ロープウェイやチェアリフトなどの索道輸送設備から、ケーブルカーなどの地上系輸送設備まで、さまざまな輸送設備を取り扱う総合メーカーだ。設備の設計から製造、建設施工、そして保守や更新まで一貫して手掛け、創業以来培ってきた豊富なノウハウと技術力を武器に、日本全国に数々の実績を残している。
「近年では、スキーヤー・スノーボーダー以外にも雪山観光を目的とした観光客や、夏期営業を行うスキー場が増加するなど、旅客輸送需要が多様化してきています。このような市場の中で当社は5割強の国内シェアを持っています」と、同社担当者は説明する。
旅客輸送設備の多くは長期にわたって運用され、安全性や快適性、コスト効率などを維持するために継続的な点検保守が欠かせない。ある程度の歳月を経た設備では、大規模な保守として機材更新が行われ、その際には新たなテクノロジーが取り入れられるケースも多い。近年では、ワイヤロープを巻き上げるモータをインバータ駆動に切り替えるとともに、電気設備も全面刷新するケースが多いという。インバータ導入の課題について同社担当者は、以下のように説明する。
「インバータを導入することで、駅と車両の間で保安信号や音声を通信する誘導無線システムにも対策が必要になります。誘導無線で使っている周波数帯と、インバータの発振周波数が重なりノイズが生じてしまうからです。誘導無線は、法令に基づき設備ごとに許可を得て運用しているため、周波数帯の変更が容易ではなく、利用できる周波数帯も限られています。インバータと重ならない周波数帯を使うには、別の通信方式に切り替える以外に方法はありません」
2.4GHz帯での独自構築から届け出制の4.9GHz帯に転換
パートナーの支援で信頼性も向上
そこで日本ケーブルが着目したのが、屋外用の長距離無線LANだった。近年では、さまざまな産業分野で通信のIP化が進んでおり、無線LANで使われる周波数帯はインバータとは大きく異なるため、ノイズも受けにくい。また、誘導無線では路線全長に渡って誘導線を敷設する必要があるのに対し、無線LANは最小限の工事で済む。そのうえ、無線LANは災害にも強い。
こうしたメリットから同社では顧客に対し、インバータ化とセットで無線LAN通信を提案するようになっていった。当初は、屋外用無線LANでは最も一般的な周波数帯である2.4GHz帯を採用し、自社でネットワークを設計・構築して輸送設備に導入していたが、最近では4.9GHz帯を採用し、設計・構築はパートナーに委託している。同社担当者はその経緯を以下のように説明する。
「2.4GHz帯はオープンな周波数帯であるため、秘匿性に懸念がありました。自営無線局はハードルが高いので、ある程度クローズな周波数帯で、かつ導入しやすい手段を探していました。そこで採用したのが、長距離伝送が可能なうえ、届け出制の専用周波数帯で安心感もある4.9GHz帯です。採用のきっかけは、ある展示会で当社社員がエイチ・シー・ネットワ-クスのブースを訪れ説明を受けたことでした」
説明を受けた直後から、高速通信を生かしたアプリケーションとして、車両やゴンドラ内のインフォメーションや広告配信などを想定し、顧客にも提案していたという。その後、2.4GHz帯よりメリットがあると判断し、数年前から更新プロジェクトで4.9GHz帯を導入するようになっていった。
「当社はIP通信の専門ではないため、ネットワーク設計に関しては不慣れな点がありました。これまで採用していた2.4GHz帯の機材は、調達元のメーカーからは設計や構築の支援は得られませんでした。エイチ・シー・ネットワ-クスは、まさに当社に足りない部分を補ってくれる強力なパートナーといえます」と同社担当者は話す。
現地でのトラブルシュートなど心強いサポートも
こうして日本ケーブルは、複数の更新プロジェクトで4.9GHz帯を取り入れてきた。2020年までに導入を完了したのは、筑波山ケーブルカーと箱根登山ケーブルカーの2路線。いずれも機材更新でインバータ化され るの に 伴う誘 導 無 線 からの 移 行 だ。「RADWIN FiberinMotion®」や「APRESIA」といった機材はおおむね共通しているが、具体的な構成はそれぞれの路線で大きく異なっている。
「ロープウェイやケーブルカーは、路線ごとに地形などの要件に合わせて設計・施工されるいわば"一点もの"であり、ネットワークも同様です。エイチ・シー・ネットワ-クスは、何度も現地に足を運んで、それぞれの路線に最適な構成や配置を検討してくれました」と同社担当者は語る。
具体的に筑波山ケーブルカーでは、日本のケーブルカーとしては珍しくトンネルがあり、かつ路線が大きくカーブしている。そこで、筑波山頂駅と山麓側の宮脇駅に加え、途中にも複数の無線LAN基地局を配置し、合計6カ所の基地局でトンネル内も含む路線全体をカバーした。加えて基地局間を接続するバックホールにはリングプロトコルを採用し、途中の光ファイバーが1本切断されたとしても通信を維持できるようにしている。
一方の箱根登山ケーブルカーは、山頂側の早雲山駅から山麓側の強羅駅まで一直線の路線で、途中に電波を遮る障害物もないことから、基地局は路線両端の駅の2カ所のみで、バックホール構成もシンプルだ。ただ、並行して行われていた駅舎工事の影響で電波が遮られる事態が発生したため、エイチ・シー・ネットワ-クスがアンテナ配置の調整などを行って対応したという。
当時のエイチ・シー・ネットワ-クスの支援について同社担当者は「想定外の不具合が生じた際にエイチ・シー・ネットワ-クスの支援が得られたのは心強かったですね。実際に現場に訪れ問題の調査・解消に尽力してくれましたし、貸し出し機材の迅速な手配や回避策を探る検証環境の構築、またこれまで確認されていなかった不具合をメーカーに報告して修正してもらうなど、さまざまな支援をしていただきました」と話す。
ネットワークに対する意識が変わり
新たなアプリケーションの道筋も
従来の物理配線・アナログ通信は視覚的に分かりやすかったが、無線LANやIP通信は直感的には分かりづらい。そのせいか日本ケーブルの社内や事業者の中で、IP通信や無線LANの導入に慎重な意見があったという。
「ケーブルカーやロープウェイは人間を運ぶ設備であるため、何よりも安全が優先されますし、その保安信号には信頼性が求められます。そのため、最初は当社で無線LANを構築していましたが、専門企業の力を借りたほうが、より一層安全性も高められると考え、エイチ・シー・ネットワークスにお願いしました。今回採用したRADWIN製品は、輸送設備や鉄道、防災分野など信頼性が求められる用途で豊富な採用実績があり、保安信号にも適しています。社内での徹底した検証や顧客先の理解もあって、先般の無線LAN導入に至りました」(同社担当者)
こうした心理的なハードルも乗り越えて採用された今、日本ケーブルでは無線LAN・IP通信による新たなアプリケーションにも期待を寄せている。誘導無線に比べ桁違いの通信容量により、車両やゴンドラ内外のカメラ映像伝送など、これまで不可能だった用途への道筋が開いたのだ。
「誘導無線は音声通話さえ聞き取れないこともありましたが、それが見違えるほどクリアになりました。通信容量にはまだまだ余裕がありますし、IPネットワークならさまざまな通信を容易に取り込めます。以前から要望があったインフォメーションやセキュリティカメラなども実現できるようになるでしょう。将来的には、ケーブルカーの自動運転なども期待できるかもしれません。現状、鋼索鉄道には、乗務員の配置が義務づけられていますが、規制改革が行われれば自動運転も夢ではありません。将来的なアプリケーションの導入に取り組んでいくためにも、エイチ・シー・ネットワ-クスには今後も良きビジネスパートナーとしてご支援いただけたらと思います」と同社担当者はエイチ・シー・ネットワ-クスへの今後の期待を語る。
お客様情報
日本ケーブル株式会社 様
昭和28年創業。ダム工事用貨物索道の建設でスタートし、スキー場・観光地における旅客輸送分野に進出。現在では輸送設備の総合メーカーとして、日本各地のスキー場・観光地におけるロープウェイやチェアリフト、ケーブルカーなどの豊富な建設実績を持つ。さらに長年培った技術を応用し、立体駐車装置や傾斜地輸送設備などにも製品展開。圧雪車やスノーモービル、人工降雪機など多彩なリゾート関連機器、さらにグループ会社を通じてリゾート運営事業も手掛ける。